ほっとけやん 第17話

わかやま新報2008年10月2日掲載

地球で生きるって…つられた6このバケツ

障害児サポートセンター「麦の郷」 半田 明史

昨年の5月中旬ごろ、戦後まもなく建てられたバラックの家で、両親が亡くなって生活保護制度を利用しながら一人で暮らしている41歳の軽度の知的障害がありそうな明彦さん(仮名)宅を初訪問しました。
彼は地域の小学校時代は少人数学級で学び、中学校を卒業してからは体力的なこともあって就労ができず、そして療育手帳の交付申請をしないまま在宅生活になっていたのです。
4畳半の部屋は彼がきれいに片づけており、両親の仏壇には花が添えられていました。しかしなぜか天井から小さなバケツが6個つってありました。
「これは雨漏りがするのでつっているんです」と彼は物静かに丁寧に教えてくれました。
彼の部屋につられた6つのバケツの生活実態と日本憲法の「日本国民は、健康で文化的な生活を有する権利がある」という条文が私の中でつながりました。
その後で、雨漏り対策は生活保護制度の生活修繕費補助を申請し、和歌山高齢者生活協同組合の営繕部に緊急に低額で工事をしてもらい、なんとか梅雨に間に合いました。
「雨が降ってきてから父母とバケツを部屋の中につることをずっとやってきたので、信じられません…」との彼の言葉。
その後も、もう少し他者からの支援を受けながら、人とかかわっていけるようになってほしいと私は思い、ヘルパーさんに支援を受けて生活できることや、対人関係を広げる1つの方法として、作業所の見学などを何度か誘いました。
そして彼の関心がわけば、療育手帳の申請を…そして福祉サービスを利用しながらこの家で暮らしていければと考えました。しかし彼からは「頭痛が出そうだから…いいです…」との返事で、現在の療育手帳の申請まで至っていません
ところがことしの春過ぎに訪問して食生活のことを尋ねていると、彼から「隣のユキさんのおばあちゃんが『これ、食べなぁ』ってダイコン煮のおかずをもってきてくれたんです」。
ユキさんは80過ぎで旦那さんが5年ほど前に亡くなり今は一人暮らしで、彼のことを気にかけてくれていること。また彼も「ユキさーん、雨降ってきましたよー!」と知らせてあげるような関係であることが分かり驚きました。
彼は隣近所の地域の人たちと支え合っていたのです。
彼から「地域で生きるって、こういう形もあるんだ!」ということを私は学びました。
しかし、私は彼にはもう少しいろいろな経験をしえてほしいな…とも願うのです。後日、私は彼の家の前でユキさんに出会うことがあり「お元気ですか?」と尋ねると「はい、おかげさんで…。おたくさん、時々来てあげてくれてるんやね…」と話してくれました。
平成18年から始まった障害者自立支援法。そして「地域生活支援事業(市町村事業)」の中に「相談支援事業」があり、現在6カ所の相談支援事業所が和歌山市から委託され、私たちコーディネーター(職種名は相談支援専門員)が活動しています。
福祉サービス(ヘルパーやデイサービス、施設など)の充実と発展はもちろんのことですが、上記の明彦さんが教えてくれた「支え合える地域づくり」も私たちコーディネーターも含め関係者にとって大切な課題だと思います。