ほっとけやん 第198話

わかやま新報2023年9月7日掲載

みんなの本来の力を大切に

はぐるま共同作業所 ラ・テール 森 亜紀

 私たちの住んでいる和歌山は、自然にも気候にも恵まれているすてきなところです。ミカン・梅・柿・トマトなど、たくさんの果物や野菜が収穫されています。しかし、その裏側でちょっとサイズが大き過ぎる、ちょっと傷がついてしまった、だけど味はおいしい農産物が規格外として、たくさん廃棄されていることに気が付きました。農家さんが一生懸命に育てた農産物が、見た目だけで世の中に出回ることができずに捨てられている、こんなにおいしいのに「おかしいよね」「もったいないよね」からラ・テールのジュース作りが始まりました。

 ジュース作りといっても、技術もなければ機械もない中でのスタート。みんなでミカンを包丁でカットし、手搾りでのジュース作りです。これがまた根気のいる仕事でした。いくつかの工場を見学させていただいたり、本で調べたりして少しずつ前進!キャッパー、充填(じゅうてん)機、搾汁機と一つずつ機械が増えるびに「わぁーすごい」と仲間のみんなも興味津々です。職員が機械を使いこなしていると、自分もやってみたいという、わくわくの芽が育ち始めます。そんな、わくわくの芽を見逃すわけにはいきません。はじめの一歩が不安で踏み出せない仲間も、「大丈夫」と背中を押してあげると、器用に機械を使いこなせる力を持っているのです。こんな力を隠し持っていたのだと感心させられる時があります。そして、みんな自然と自分の力が発揮できる作業を、自信を持って担当してくれています。時には、職員が間違っていると教えてくれたり、フォローに入ってくれたり。大変な仕事を一緒にしていく中で、お互い信頼関係が深まり、職員と仲間という関係ではなく、共に働く同僚のような関係に育ってきたように思います。機械が入ったとはいえ、手動での作業ですから、朝早くから夕方までみんなで一生懸命に仕事をしてくれています。

 あるお給料日の日のことです。一人ひとりに「お疲れさま、ありがとう」と声を掛けながら、お給料を渡していると「こんなに、お給料が増えた」「仕事いっぱい頑張ったからなぁ」「ありがとう」という声が聞こえてきました。仕事の量が多くて、少しイライラ気味だった優さん(仮名)は、自分の頑張りをお給料として受け取った時、イライラが喜びに変わったのです。それからの優さんは、「みんな頑張るぞ」「仕事の量が多くても、早出を頑張れば大丈夫」と仕事への意欲、責任感、そして他者への思いやりの声が自然と出てくるようになりました。そして、そのお給料で「バーゲンで買ったんだけど、このカバンいいだろ」と出勤するなりカバンを見せてくれました。歩生さん(仮名)は耳が聞こえませんが、自分のお給料で携帯を上手に使いながら滋賀県に日帰り旅行に行ったり、難波で食べ歩きを楽しんだりしています。自分で働いたお金で、買い物や余暇を楽しみ、心豊かに生きている姿を見ていると、心がほんわかします。

 ミカンがおいしい季節になると、知り合いからの紹介でジュースを作ってくれると聞いたのですが?というお電話をたくさん頂くようになりました。私たちの作ったジュースが「おいしい」言っていただく喜びや、ジュース職人としての誇り、たくさんのお客さまとのご縁を大切にしながら仕事だけでなく、いろいろな場面で自分らしく羽ばたいていってほしいなと思います。