紀伊パーソン

朝日新聞 令和2年6月22日(月)掲載

人間主義におもしろさ

障害者映像文化研究所 常務理事        中橋 真紀人さん(69)      

 「ほっとけやん」の精神を掲げる社会福祉法人「一麦会」の障害者施設「麦の郷」(和歌山市岩橋)に、障害者映像文化研究所はある。設立は2011年9月。障害者が登場する国内外の映画を片っ端から集めてデータベース化を進めている。

 同研究所の常務理事として実務を一手に担う。「要するにね、おもしろいんですよ」。障害のある人が生き、くらし、子育てをするのに日本は大変なところだ。制度はある。それは使えるのかどうか。ないときはどうするのか。使い、改善し、つくる最前線に立つのは必ず障害のある当事者と家族だ。

 「与えられるものはありません。世の中にぶつかり、要求し、運動する。これを何十年も継続している人たちは魅力的です。ただのエンターテインメントではなくて、悩み、喜び、共感するヒューマニズムで貫かれているところが『おもしろい』のです」

 大阪府豊中市で育ち、父親の転勤で東京に。大学生時代に映画の楽しさを知り、卒業後はフリーのプロデューサーをしたり、劇団の映像部門で配給・宣伝係をしたり。40歳を超えて自分で映画を作りたくなった。そのころに手がけたのが、聴覚・知的障害のある少女の漫画「どんぐりの家」(山本おさむ原作)のアニメ化だ。

 さらに、映画「ふるさとをください」の完成は2007年。精神障害者の居場所づくりを目ざす当事者と地域との衝突と共生を描いた映画は麦の郷がモデルだ。このときの縁で研究所はできた。

 今は、来年の紀の国わかやま文化祭に企画を売りこむのに忙しい。(下地毅)