紀伊パーソン

朝日新聞 令和3年2月14日(月)掲載

店番任され踏み出せた

元ひきこもりのカフェスタッフ        田中大二朗さん(27)      

 「創-HAJIME-café」はJR粉河駅(紀の川市)の前、1917(大正6)年にできた古民家「山崎邸」の一角にある。客が帰り際に「おじいちゃんやおばあちゃんの家みたいで落ちつく」と言うのを聞いて、我が意を得たりと思う。

 いじめに遭って小学生で不登校気味になった。中学2年でまったくそうなった。高校も数カ月で辞めた。17歳の時に母親が急逝。それから10年間、ひきこもりになった。

 ひたすらイライラしていた。「こんな状態、いいわけない」。何かをしないといけないけれど、何をしていいのかわからなかった。不安が極まるたびにパニックになった。「もう限界」「もう終わり」。ドアを蹴り、家族に当たりちらした。

 「この10年間を長かったとは思わない。何も無く、何も覚えていないから、気がつくと10年が過ぎていた。毎日、死にたいと思っていました」

 おなじく不登校だった兄のすすめで精神科にかかった。2019年の夏ごろ、兄に連れられて「創」を相談で訪ねた。スタッフのひとりがひきこもりの支援者で、兄と自分とに長年あきらめることなく声をかけ続けてくれた人だったからだ。

 その年の秋、「創」ができて10周年の「文化祭」があり、店番を任された。心地よかった。「一歩を踏み出すにはここに頼るしかない」。以来、包丁担当として仕込みを任されている。休みの日も「創」に入り浸り、仲間とメニューを語りあう。定番の熊野牛カレーランチ(1100円)、月替わりの季節限定ランチ(同)が田中さんのおすすめだ。ランチは木・金・土曜の11時~15時、朝カフェは金曜の9時30~11時

     

 「ここは第2の実家というよりも実家そのもの。みなさん、来てくださいね」  (下地毅)